燃料電池研究会 第131回セミナー

電気化学会内の研究会の一つである標記研究会のセミナーが、4月20日の午後、東京理科大学の森戸記念館にて、「PEFC向け電極触媒開発の最新動向」と題して開催されました。久しぶりに電極触媒の現状をゆっくりと聞くことができましたので、ここで少し紹介したいと思います。 

1. 高活性・高耐久性を有する安定化Ptスキン-PtCo合金カソード触媒の開発
山梨大学の内田裕之先生が講演されました。内容の大部分は、NEDOの2つのプロジェクト(2008~2014年度「HiPer-FC (High-Performance Fuel Cell) プロジェクト」、2015年度~現在「SPer-FC (Superlative, Stable and Scalable Performance Fuel Cell) プロジェクト」における成果からの発表です。

前半は、市販の黒鉛化カーボン担持Pt触媒よりも高活性・高耐久性なPt触媒の合成とその評価結果についてでした。単体の黒鉛化カーボンは黒鉛化された表面であるがゆえに、通常の触媒調製法ではPtがカーボン表面で凝集しやすいという問題があり、山梨大学では「ナノカプセル法」という手法を用いてPt粒子を高分散させることに成功しています。

結果的に、触媒としての初期性能も向上し、負荷変動試験などの耐久試験を行っても市販触媒よりも耐久性に優れている事が示されました。同じ黒鉛化カーボン担体に同じPt担持率で調製した市販触媒とナノカプセル法触媒では、初期のPt粒子径はナノカプセル法触媒(平均2.8nm)の方がやや大きくなっていますが、ECA(電気化学的表面積)を比較すると、市販触媒のPt粒子径(平均2.3nm)の方が小さいにも関わらずナノカプセル法触媒とほとんど同じという事実は、市販触媒のPt粒子が凝集しているためと思われ、TEM(透過型電子顕微鏡)でもその様子が観察されています。 

ナノカプセル法触媒の初期のPt粒子径をもっと小さくすることができると、さらに活性が上がると思われますが、今後の進展に期待したいと思います。 

中盤から後半にかけては、カソード触媒用のPtCo合金触媒についての成果を説明されていました。最近話題となっているコア―シェル型触媒(中心がCoで表面にPtスキン層が形成されている)の最近の進展として、上記ナノカプセル法を適用し、従来よりも高耐久性となったデータが示されていました。今後は大量生産するためのプロセス開発が課題かと思います。 

2. 石福金属興業におけるコアシェル触媒の量産技術開発
開発部の井上秀男氏による講演でした。2012年からNEDOのプロジェクトに参画し、主に同志社大学の稲葉先生の研究室と共同で開発を進めています。 

石福金属の触媒は、カソード用のコア―シェル型触媒で、コア材料としてAuやPdを検討していましたが、結果的にPdの方が活性が高かったということで、量産化技術開発はPdコア-Ptシェルで進めています。貴金属の価格の面からも、コア材料はAu(4/13現在で約4700)よりもPd(約2000)の方が優位なのですが、貴金属の価格は20年前と比べてかなり高くなってしまいました。 

石福金属のコア―シェル触媒の調製方法は少し特殊で、コアの金属上にUPD (Under Potential Deposition) 法という方法で1原子層だけCuを析出させ、その後にPtと置換させてPt層を1原子層だけ形成させるというものです。 

このUPD法は非常にユニークなのですが(ここでは詳しくは記しません)、量産するにはなかなか大変な方法で、かなり苦労をしながら量産化方法を検討してきたようです。 

講演後の質疑応答で実際に質問させていただいた事なのですが、UPD法で一旦形成されたCu層が一部最後まで残存するようで、不純物という観点からすると少し気になる量だと思います。この量を低減しつつ量産化できるプロセス開発が今後の課題と思われます。 

3. 固体高分子形燃料電池用カーボンアロイ触媒:物質探求とメカニズム解明
群馬大学の尾崎純一先生の講演でした。群馬大でのカーボン材料の研究は歴史が長く、1950年代から行われていたようで、私は全く知りませんでした。 

Ptを使わないカーボン系触媒を燃料電池のカソード触媒に応用しようという試みはだいぶ前から基礎的検討は行われていましたが、高価で資源量の少ないPtを使わない触媒を開発しないと、特にFCV(燃料電池自動車)が大量普及することは難しく、その観点から最近いろいろなところで検討されているわけです。 

尾崎先生の研究室は日清紡と共同で「カーボンアロイ触媒」の開発を進めており、昨年5月には日清紡とバラード社が共同研究を行うと発表され、今一番注目されている非Pt系触媒の一つかと思います。 

Ptを使わなくても高性能で安価な触媒が実用レベルになると、燃料電池業界には非常にインパクトが大きいと思います。現状のFCVに使われるPt触媒の量をどこまで低減できるかは分かりませんが、非Pt系触媒の開発は世界中で進んでいくかと思います。大学の研究としては、活性点がどこなのかを解明することは更なる活性向上に重要ですが、材料の複雑さのためかなり難しいテーマかと思います。 

4. 脱貴金属・脱炭素を目指した酸化物系カソード触媒の研究開発
横浜国大の石原顕光先生の講演でした。太田健一郎先生が退官になる前から行われていた研究テーマですが、着々と活性向上が進んでいるようです。 

触媒の安定性という点では酸化物は非常に有利ですが、逆に伝導性や酸素吸着能などの点がデメリットとなります。それでも試行錯誤しながらここまで活性が出るようになったのは大きな進歩だと思います。 

これまでは活性向上を主眼に研究を進めていたのですが、ここしばらくは活性点の解明を理論的に進めていくそうです。石原先生曰く、活性向上を目指して試行錯誤するよりもハードルの高い仕事になりそうだとのことですが、どの様な結果が出てくるか注視していきたいと思います。 

非Pt系触媒の活性が向上してきているのは間違いないのですが、実際の電池としての特性を評価している条件を見ると、ほとんどが加圧条件で測定しています。常圧でも性能が出るPt触媒の活性の高さはやはりすごいなと思います。 

ここで紹介した内容は、「平成27年度NEDO新エネルギー成果報告会(燃料電池・水素分野)」で多くが発表されており、次のウェブサイトから資料を見ることができます。 

http://www.nedo.go.jp/events/FF_100068.html

 

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