第12回水素・燃料電池展(FC EXPO 2016)の見学記

先週になりますが、3月2~4日に開催されたFC EXPO 2016の中日(3日)に、会場の東京ビッグサイトへ行ってきました。主催者の発表によると、3日間で合計6万人以上の来場者があったようです。

 http://www.wsew.jp/RXJP/RXJP_JREW/documents/2016/jp/wsewjp_2016_TAC_0307_03.pdf

 午後からの入場だったので余りゆっくりと見て歩けませんでしたが、それでも目を引いたブースではいろいろと質問させて頂きながら、最新の情報に触れることができました。目を引いた製品等について少し書いておきたいと思います。

家庭用燃料電池(エネファーム)については、アイシン精機がSOFC(固体電解質形)タイプの新モデルを展示していました。PEFCよりも貯湯槽は小さ目なため、全体としてコンパクトになっているようです。運転温度は700~750℃位、発電効率は52%(定格時)という事でした。PEFC(固体高分子形)との比較でいうと、基本的にSOFCはDSS運転(Daily Start and Stop:毎日起動停止)しない方が劣化は少なく、説明員の方も「この新型のSOFC製品も連続運転が基本で、負荷に応じて出力を制御する」という説明でした。更にPEFCとSOFCをどう区別して販売していくのか尋ねたところ、設置する家庭の電気と熱の需要をよく解析したうえで、どちらを勧めるか判断していくとのことです。今後のエネファーム市場が、PEFCとSOFCでどちらの設置数が多くなるのか、しばらく注目していきたいと思います。 

パナソニックのブースには、国内向けのPEFCタイプのエネファームの他に、欧州向けに販売を始めている製品が展示されていました。国内向けと出力は同じ(750W)なのですが、全体のサイズは結構大きめになっています。説明員の方に聞いたところ、海外のお客さんは結構がっしりとした外観を好むという事で、あえて大きめに作っているそうです。民族性の違いなのでしょうか。日本の都市部では宅地面積があまりとれないところが多いので、できるだけコンパクトにしたいところですが、欧州では宅地が広いから無理やりコンパクトにしようという考えがあまりないのかもしれません(勝手な想像ですが)。 

東芝のブースでは、純水素タイプのPEFC製品が展示されていました。改質水素を使うタイプに比べ発電効率が高いというのが売りなのですが、水素供給の事を聞いたところ、やはりそこをどうするかは悩みどころのようでした。 

富士電機のブースでは、長年開発を行ってきたりん酸形燃料電池(PAFC)の説明パネルが展示してありました。PAFC時代から燃料電池に関わってきた私としては、今では国内で富士電機がPAFC事業を行っている唯一の会社ということで、個人的には密かに応援しています。先月2月17日に開催された神奈川県スマートエネルギー課主催のセミナーで、富士電機の方がPAFCの講演をされた時にも説明があったのですが、今年度は十数台のプラント(100KW機)が出荷されているそうです。ユニークなところでは、ドイツに防火用対策を兼ねてPAFCが使われているそうです。これは空気極側から出てきた排気ガスは酸素濃度が下がっているため(15%位)、この排気を防火対策したい室内に送り込むことで火災になりにくいという事です。15%位の濃度であれば(日本国内では法に引っかかりますが)人がその雰囲気内に入っても窒息しませんので問題ありません。このような用途を富士電機はよくぞ見つけたなと思います。もっとPAFCが見直されてもいいのではと思っていますので、少しずつ販売数が増えるといいですね。 

SOFCでは、三浦工業と一緒に開発をしてきた住友精密工業が、自社開発したスタック(平板型)を展示していました。容量800Wのスタックですが、意外と小さいものだなと思って見学していました。 

山梨県のブースに行くと、山梨大学の展示と一緒に県内で新たに参入したという2社が展示していました。一つは株式会社エノモトで、山梨大学と共同で開発したガス拡散層一体型金属セパレータを展示していました。もう一社はタカハタプレシジョン株式会社で、ここも山梨大学と共同で新しい電解質膜の開発を行っているという事です。両社とも元々燃料電池とは無縁の事業でしたが、将来の事業展開を考えて新規に参入することを決めたそうです。地方の中小企業も頑張っているなと思わされました。 

歩いていると、岩尾磁器工業(佐賀県)という会社がチューブ型のSOFCセルを展示していました。有田焼の本業(陶器、セラミックス)から発展して参入したようです。 

HONDAのブースには「スマート水素ステーション」が展示されていました。パッケージ化されているので、設置は非常に簡単なようです。燃料電池自動車へ水素を供給できるように、水電解で作った水素を高圧にする必要がありますが、コンプレッサーを使わないシステムとなっています。電解した水素を一定の容器の中へどんどん送り込むという原理ですが、電解セルが固体高分子膜を使っているので、高圧に貯める水素極側と大気中に酸素排気する酸素極側との圧力差で膜が破壊されない様に工夫がされています。 

株式会社ニシムラ(愛知県豊田市)のブースには、プセス成形で作成した金属セパレータが展示されていました。トヨタの燃料電池車「ミライ」の燃料電池スタックに使われている金属セパレータそのものでは無かったのですが(それでもかなり高精度のものでした)、この会社の技術が使われているそうです。非常に精密なプレス技術です。 

今回の展示会を見て回って思うのは、ここ最近韓国企業の展示が増えているように感じています。燃料電池用の素材からスタック開発、システムの製造・販売と、各種企業が参加していました。実際の性能等はよくわからないのですが、日本メーカーもうかうかしてられないのかもしれません。韓国企業のブースで日本語の通訳の方がいる時は楽ですが、英語で話さないといけないときは(もちろん私は韓国語は全くわかりません)、面倒ですね・・・。最後に「カムサハムニダ」とお礼を言うと、皆さん驚きつつ嬉しそうにしてくれますね。たまに韓国へ行くことがあるので、少し韓国語の勉強をした方がいいですね。 

最後に特記事項として、一昨年の神奈川県スマートエネルギー課主催セミナーの後の企業相談会で私が面談した会社が今回出展していました。相談会でいろいろ伺っていた中で、FC EXPOへの出展もいいのではという話をしていたのですが、実際に出展することとなり、実は出展内案内が自宅へ送られてきていました。ブースに行くとその時に面談した方がいらっしゃいました。ブースを訪れる人はかなりいたようで、ビジネスが広がればと思います。 

明日(3月11日)は、東北大震災からちょうど5年目となります。起こしてはいけない原発事故が起きてしまいました。明日はいろいろな報道があるかと思います。原発・エネルギー問題についても、今後のことについて考える一日にしたいと思います。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です