日本技術士会衛生工学部会11月度講演会

前回のブログ更新からだいぶ間が空いてしまいました。

日本技術士会の部会行事では、化学部会以外の月例講演会にはほとんど参加したことが無いのですが、この日は高砂熱学工業株式会社技術本部技術研究所の加藤敦史氏が「水素開発の動向と建築設備用水素エネルギー利用システムの紹介」という演題で講演されました。実は講師の加藤氏の職場へ昨年お邪魔して話を伺ったことがあり、その後の開発状況が聞けるかと思い参加しました。 

前半は、水素の性状から始まり、水素製造から水素利用技術までを俯瞰する内容で、普段水素エネルギーにあまり関係しない人にとっては、全体の概要をとらえることのできる内容だったと思います。 

後半は、高砂熱学における水素エネルギー技術開発の説明となり、これまでの開発内容について概略を知ることができる内容です。簡単に説明すると、水電解と燃料電池発電を同じセルで行い(一体型セル)、水素は再生可能エネルギーベースで製造して水素吸蔵合金に貯蔵し、必要時に水素を取り出して燃料電池で発電するシステムの開発です。 

このシステムにはいろいろと鍵となる技術や材料が使われていますが、触媒技術者として仕事をしていた私の視点から重要だと思われるポイントは、一体型セルの酸素極側にはPt-Ir系触媒が使われていることです。 

水を電気分解する際には、酸素を発生させるためにかなりの過電圧を必要とします。酸素発生の標準電極電位は1.23V(@25℃)ですが、実際に反応を進めるためには過電圧を必要とします。Pt触媒は酸素還元反応ではそれなりに活性が高い(Pt合金系の方がもっと活性は高いが)けれども、酸素発生側となると意外と過電圧が高く、水電解時のエネルギーロスを考えるとPtよりも過電圧の低い触媒が必要となります。 

ただし、燃料電池としてもセルを作動させる必要があるので、酸素発生と酸素還元の両方に活性の高い触媒となると現状ではあまり選択肢は無く、高砂熱学のセルに使われているPt-Ir系触媒が現在では最も良い選択肢になると思います。この触媒の開発は今後のセル性能を高めるための重要な課題となります。 

高砂熱学のシステムはNEDO事業として進めており、現在数kW級の容量ですが、実証試験を進めて今後はもう少しスケールアップしたシステムの開発に進むようです。今後どのように進んでいくか注視していきたいと思います。

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