触媒学会宇都宮地区講演会「水素エネルギーキャリアの最新動向」(2017年7月21日)

だいぶ時間がたってしまいましたが、7月21日に宇都宮大学工学部にて行われた標記講演会に参加した時の講演内容を少し書いておきたいと思います。栃木県で12年間過ごした私にとって久しぶりの宇都宮訪問だなと思ったところで、実はこの講演会の1か月ほど前に栃木県旧今市市(今は合併して日光市今市になったのですね)のある工場見学に参加した時の帰途で、宇都宮駅に立ち寄っていたことを思い出しました(こちらの工場見学の話もブログに書こうと思っていたのですが・・・)。

この日は3名の方の講演とその後の懇親会の2部構成で、懇親会まで参加してきました。当日の講演の内容を簡単にご紹介しておきます。

講演1:水素の大規模貯蔵輸送技術-SPERA水素システムと応用展開-
千代田化工建設株式会社 技術開発ユニット兼水素チェーン事業ユニット
技師長 岡田佳巳 氏

常温常圧で気体状態の水素をいかにコンパクトに貯蔵し効率的に輸送するかという課題に対し、有機化合物であるトルエンに水素を化合させた形(メチルシクロヘキサン:MCH)で貯蔵・輸送し、必要な場所でMCHから脱水素反応により水素を取り出し、残ったトルエンを再び水素貯蔵用に使うというサイクルを構築するための技術開発についての話ですが、岡田氏による同内容の講演の主要部分は、これまでにいろいろな所で講演されてきた内容なので、ここでは詳細は記載しません。

この日の講演でのトピックスとして2つ挙げておきたいと思います。

1つ目はSPERA水素のエネルギー効率についてです。これまでにこの点について発表されたことは無かったのではと思われます(違っていたらご容赦下さい)。外部発表に当たってはいろいろと制約があって細かい内容までは開示できないということでしたが、南米大陸の風力発電による水電解で製造した水素を日本へ運搬することを想定し、次の3項目

(1)トルエンの水素化工程で使うエネルギー
(2)タンカー輸送時に使うエネルギー(6000kmの行程を往復)
(3)脱水素反応で使うエネルギー(吸熱反応であるこの工程のエネルギーロスが一番大きい)

を考慮した時のエネルギー効率は約60%ということだそうです(初めに水素そのものを製造するための工程はここには含まれていないことにご注意下さい)。他の水素媒体、すなわち液体水素やアンモニアと比較して、今のところコストは一番低いという試算のようです。

もう一つのトピックが、SPERA水素の実証プロジェクトが始まるというニュースリリースが近く発表されるということでした。この話をすぐにブログにアップしていれば私の事務所のHPも少しは注目されたかもしれませんが、今となっては古いニュースとなってしまいました。詳しくは次のURLにアクセスしてご覧ください。当面は天然ガス由来の水素で実証プロジェクトを進めるようです。

世界に先駆けて国際間水素サプライチェーン実証事業が本格始動
―2020年にブルネイから水素を海上輸送し、国内供給へ-http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100807.html?from=nedomail

講演2:アンモニア合成・分解用触媒の開発
大分大学 理工学部共創工学科 応用化学コース 准教授 永岡勝俊 氏

水素キャリアの一選択肢として注目されているアンモニアの合成および分解に高活性な触媒の開発についての講演です。

前半は、現状のハーバー・ボッシュ法とよばれる高温・高圧下でのアンモニア合成を、より穏和な条件でも合成を可能とする触媒開発の話でした。RuをMgO、CeO2およびPr2O3(Prはあまり見ない元素ですが、プラセオジムという希土類元素です)に担持した触媒について低圧でアンモニア合成を行ったところ、Pr2O3担持の場合が一番高活性だったという話です。MgOとCeO2担持ではRuは粒子状に担持されているが、Pr2O3上ではRuは担体全体を包み込むような形で担持されているという点がこの触媒の一番の特徴と思われます。その様な形態になっているにもかかわらず、Ru/Pr2O3の場合に表面塩基性が一番強くなり、塩基点の量も一番多いというデータが提示されていましたが、そのあたりの関連性についてもう少し詳細を聞きたいところでした。

後半は逆に、アンモニアからいかに効率よく水素を取り出す触媒を開発するかの話です。できるだけ外部からのエネルギー投入無しで反応を進めたいということで、γアルミナに担持したRuO2触媒が、外部加熱無しで短時間に反応温度まで上昇できたという話でした。水素キャリアとしてのアンモニアをこのような分解反応で水素を取り出して燃料電池で発電する方法や、アンモニアそのものを燃焼して発電する方法など、どう使うべきかの議論はいろいろとありますが、アンモニア分解に高活性な触媒ができると、燃料電池用の燃料源としての選択肢の一つになってくる可能性が高くなってきます。いろいろな方式がしばらくは競争していくと思われます。

講演3:水素社会実現に向けた取組み
JXTGエネルギー株式会社 中央技術研究所 壱岐英 氏

JXという社名になるまでに何度も合併があり、さらに東燃ゼネラル石油との合併がつい最近あり、社名がJXTGになったばかりで、私も含め参加された方は社名を見て「TGって何?」と思ったようで、懇親会の席上でもその話題が出ておりました。

社名のことはさておき(石油会社にとっては大変な状況が今後もずっと続いていくと思われます)、この日の講演の内容は1番目の講演に重なる部分が多いのですが、JXTGでも水素キャリアとして有機ハイドライド(SPERA水素と同じトルエン←→メチルシクロヘキサンの変換で水素の貯蔵・輸送を行う)を使い、MCHの脱水素反応を起こすための触媒技術と、このシステムを使った水素供給インフラ構築についての話がありました。

MCHの脱水素反応触媒に関しては1番目の講演の千代田化工建設とは競合するのですが、水素インフラを構築していきたいという思いは両社共通で、いろいろな場面で協力して活動しているようです。

懇親会の席では、私の両隣に講演された永岡氏と壱岐氏が座っていましたので、講演では聞けなかったことを質問したり、水素社会に向けての課題などいろいろと意見交換させていただき、大変勉強になりそして非常に有意義な一日となりました。

また、懇親会に席には宇都宮大学の教員の方々が多く参加されていて、私が卒業した北大理学部化学科の同窓の方もいて、ちょっと驚きながらも共通の話題で盛り上がり、世間は狭いと思った一時でした。でも触媒の世界は確かに狭いかもしれません。悪いことするつもりはありませんが、言動には気を付けないといけないですね(笑)。

本講演会の準備をされた宇都宮大学・古澤毅先生や研究室の皆さん、および関係者の皆さんには大変お世話になりました。

会場の宇都宮大学工学部

講演の案内看板

宇都宮のシンボル、餃子の像

宇都宮と言えばこれ

地元の人ならすぐわかる場所

 

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