「原発ホワイトアウト」読了

原発問題に関心のある方なら既に読まれている方が多いかと思います。2013年に単行本で発売された時に大変話題になりました。私も読みたいなと思っていたのですが、発売された時期は会社を退職する半年ほど前のころで、いろいろなことに時間を取られているうちに忘れていってしまいました。 

今年の初めころに近所のブックオフで本を物色していたところ文庫版になっていたものが目に入り、読んでみようと思い購入したのですが、しばらく本棚に放置していました。ようやく5月の連休あたりから少しずつ読み始め、つい先日読了しました。 

現役キャリア官僚が書いたということで当時は非常に騒がれ、一応小説という体裁になってはいますが、かなり実態をついて書いているが故に、霞が関で「犯人探し」が行われているのでしょう。著者の若杉冽氏(ペンネーム)と元経産省官僚の古賀茂明氏との対談からも(下記リンク参照)、かなり実態に近いところを書いていることが分かります。 

『東京ブラックアウト』若杉冽×古賀茂明 告発対談 「キャリア官僚はメルトダウン中に再稼働を考え始める生き物です」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42017

 この対談は、若杉氏が次に書いた「東京ブラックアウト」を受けての対談ですが、1作目の「原発ホワイトアウト」も交えての話は非常に興味深いですね。2作目の「東京ブラックアウト」もそのうち読んでみたいと思います。 

それにしてもこの小説に登場する人物たち、特に原発を動かしたい人々の実態がこれに近いものだとすると、何とも言えない気分になってしまうのは私だけではないでしょう。一体何のための誰のための原発なのでしょうか。 

だいぶ前にあるところにも書いたことですが、原発関連に投じている人・物・金を再生可能エネルギー開発に振り向けていくことで、この分野の技術開発はもっと進んでいくはずです。最終処理法が決まっていない放射性廃棄物を生み出し続ける原発をこれからも動かしていきたいと考えている人たちには、私たちのずっと先の世代にどのようなエネルギー技術を残してくべきなのかの哲学は無いのかと問うてみたい。 

ただし本当に残念なことに、原発から発生した放射性廃棄物は厳然として存在しており、そしていずれは既存の原発(特にメルトダウンした福島第一原発)を廃炉にする作業が次々とやってくるという事実からは逃れることができません。私の世代のずっと前の世代の人々が決めて動かしてきた原発の後始末は、私たちの世代そしてこれからずっと続く世代の人たちが担っていかねばならないという事実は、原発に対してどのような立場であっても受け入れるしかありません。廃炉作業のための技術開発は進めていかないといけません。最終処分をどうするかも非常に長い時間をかけて考えていく事になるのでしょう。そのためにもこれ以上放射性廃棄物を増やすようなことはしてほしくない、と思うのは私だけではないでしょう。 

私は技術士として日々仕事をしていますが、「技術士法」には「公益確保の責務」が定められており、
「その業務を行うに当たっては、公共の安全、環境の保全その他の公益を害することのないよう努めなければならない」
とうたわれています。

 さらに日本技術士会には「技術士倫理綱領」が定められており、全10か条の2つ目の「持続可能性の確保」の項には、
「技術士は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会の持続可能性の確保に努める」
とあります。 

水素・燃料電池関連の仕事をしてきた者として、そして今も関わり続けている者として、これから先の世代にどのような社会を残していきたいのか、そのためにどのようなエネルギー技術が必要なのか、「持続可能性の確保」の項の一文をかみしめながら、微力ではありますが少しでも社会の役に立つような事をしていけたらと思います。 

ところで若杉冽氏の2作目の小説「東京ブラックアウト」も読んでみたいと思うのですが、まだ文庫版は出ていないようですね。電車で移動している時間などに読むには文庫版の方が便利なのですが、もう少し待ってみることにしましょうか。

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